うちのお店は20時閉店。
私はいつも遅番です。
閉店後、遅番の人たちは少しの時間だけ買い物をして帰ることができます。
私はこの時間が好きです。
一日の仕事を終え、
疲れた体で売り場を歩く。
すると、
昼間には絶対に出会えない値段のものたちが、
私を待っています。
半額。
さらに値下げ。
そしてたまに、
「もうお願いだから連れて帰って」
みたいな値段。
こういうのを見ると、
疲れが少し吹き飛びます。
その日もありました。
お弁当。
しかも、
2個で200円。
……200円。
2個で。
2個で200円。
2回言ってしまいました。
つい嬉しくて、
何回でも言いたくなります。
私は迷わず手に取りました。
今日はいい日だ。
そう思いました。
そして、
金麦も買いました。
金麦は安くなっていません。
こちらは通常価格です。
世の中、
そんなに甘くありません。
でもいい。
お弁当が2個で200円なのだから。
今日の私は勝っています。
お弁当2個。
金麦。
これを持ってセルフレジへ向かいました。
隣のレジには、
仲良しの魚屋さんがいました。
仕事も終わった。
弁当も安く買えた。
家に帰ったら金麦がある。
もう私に怖いものはありません。
魚屋さんと、
どうでもいい話をしながらゲラゲラ笑いました。
楽しかった。
一日の疲れも吹き飛びました。
そして私は、
「お疲れさまでした〜!」
と、
魚屋さんに大きく手を振りました。
向こうも笑っています。
私も笑っています。
なんなら、
ちょっとルンルンです。
お弁当と金麦を持って、
私は店をあとにしました。
今日も一日よく働いた。
お疲れ、私。
そんな気分でした。
ただ一つ。
私は、
お金を払っていませんでした。
翌朝。
上司からLINEが来ました。
朝からの上司。
なんだろう。
開きました。
「昨日のお弁当と金麦の精算ができてませんので、出勤したらレジ責任者のところに行ってお金を払ってください」
……。
…………。
お弁当と金麦?
私の?
精算が、
できてない?
昨日の夜を思い出しました。
お弁当を見つけた。
喜んだ。
金麦を持った。
セルフレジへ行った。
魚屋さんと笑った。
大きく手を振った。
帰った。
……。
お金を払った場面だけ、
ない。
血の気が引きました。
やってしまった。
私は、
自分が働いているスーパーから、
お弁当と金麦を持って、
お金を払わずに帰ってしまった。
しかも、
堂々と。
コソコソどころではありません。
魚屋さんの目の前です。
ゲラゲラ笑っています。
最後には、
大きく手まで振っています。
防犯カメラがあるなら、
たぶん全部映っています。
お弁当と金麦を持った女が、
満面の笑みで店を出ていく姿が。
恥ずかしい。
ものすごく恥ずかしい。
でも、
話はこれで終わりませんでした。
私が帰ったあと、
店内放送が流れていたそうです。
「先ほどお弁当と金麦を買った従業員さん、至急レジまでお戻りください」
……。
やめて。
せめて商品名は伏せてほしい。
「先ほどお買い物をされた従業員さん」
ではダメだったのでしょうか。
なぜ、
お弁当と金麦。
それではもう、
私の夕飯の発表です。
今夜は、
お弁当と金麦です。
全館にお知らせする必要はありません。
そして何より悲しいのは、
その頃の私は、
そんな放送が流れていることなど知る由もなく、
ご機嫌で家に向かっていたということです。
200円のお弁当を持って。
金麦を持って。
「今日、安く買えたなあ」
なんて思いながら。
払ってないのに。
翌日。
出勤しました。
できれば、
昨日のことなど誰も覚えていないでほしい。
そんな淡い期待を抱きながら。
覚えていました。
魚屋さんが私を見るなり、
言いました。
「万引きするなよー」
爆笑。
……。
違う。
違うんです。
故意ではないんです。
私はただ、
2個で200円のお弁当に、
少し浮かれていただけなんです。
もちろん、
すぐにレジ責任者のところへ行って、
きちんとお金を払いました。
これで一件落着。
なのですが、
なんでしょう。
この、
ものすごく損した気分は。
ちゃんとお金は払った。
当然です。
でも、
私はただ200円のお弁当を買いたかっただけなのに、
店内放送で夕飯を発表され、
翌日には、
「万引きするなよー」
と言われました。
お弁当、
2個で200円。
とても安かったです。
その代わり、
失ったものは、
少し大きかった気がします。
48歳。
スーパー勤務。
一日の仕事を終え、
200円のお弁当に喜び、
金麦を片手に、
仲間へ大きく手を振って帰る。
そして翌朝、
自分が一円も払っていなかったことを知る。
人生、
調子に乗ってはいけません。
特に、
弁当が安かった日は。
あの日以来、
セルフレジの最後には、
レシートを見るようになりました。
お金を払う。
たったそれだけのことを、
48歳にして、
改めて学びました。
授業料は、
お弁当2個と金麦代。
そして、
少しの尊厳。
本当に大器晩成なのかは、また次回。


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