10年前、家を買った。
35年ローンである。
35年。
長い。
ちょっとした刑期である。
住宅ローンを組むとき、
固定金利にするか、
変動金利にするか、
という問題がやってきた。
当時は変動金利のほうが安かった。
安い。
とても魅力的。
でも私は思った。
「途中で金利上がったらどうすんの?」
怖い。
35年間もある。
35年後の日本なんて分からない。
というか、
来月の私ですら分からない。
そんな女が、
35年後の金利を予想できるわけがない。
ということで、
私は固定金利を選んだ。
金利は1%くらい。
よし。
これで安心だ。
35年間、金利の心配をしなくていい。
「安心を買ったんだ」
そう思った。
……はずだった。
ところが。
金利が上がらない。
全然上がらない。
1年経っても、
3年経っても、
5年経っても、
上がらない。
それどころか、
変動金利を見ると、
めちゃくちゃ安い。
…………。
なんだこれ。
私、
固定にした意味あった?
住宅ローンの記事を見れば、
「変動金利が人気」
「低金利が続く」
みたいなことが書いてある。
そのたびに、
心がザワつく。
いやいや。
私は安心を買ったんだ。
これでいい。
そう自分に言い聞かせる。
そしてまた、
変動金利を見る。
安い。
やっぱり安い。
…………。
変動にすればよかったんじゃない?
そして私はついに、
「変動金利に乗り換えたほうがいいんじゃない?」
と本気で考え始めた。
調べた。
かなり調べた。
住宅ローンの借り換えについて調べ、
金利を比べ、
毎月いくら安くなるのか考えた。
もう気持ちは、
半分くらい変動金利だった。
10年前の私は、
「35年間、安心だから!」
と固定金利を選んだのに、
数年後の私は、
「いや、変動めっちゃ安いやん」
と言っている。
信念。
弱い。
でも結局、
乗り換えなかった。
なぜか。
やっぱり怖かったから。
「今は安いけど、
この先、金利が上がったらどうする?」
また出た。
ビビり。
結局私は、
固定金利に残った。
そしてまた数年。
変動金利は安いまま。
そのたびに思った。
やっぱり乗り換えればよかったんじゃない?
固定を選んで後悔し、
変動への乗り換えを考え、
怖くなってやめ、
また後悔する。
これを何年も繰り返した。
長い。
固定金利を選んだ自分を信じるには、
あまりにも長い10年間だった。
ところが最近。
なんだか様子がおかしい。
「金利上昇」
「住宅ローン金利引き上げ」
そんな言葉を、
よく見るようになった。
そして今の固定金利を見て、
私は思った。
え。
高っ。
ちょっと待って。
うち何%だっけ?
約1%。
…………。
来た。
ついに来た。
10年前の私。
出てこい。
そして、
途中で変動金利に乗り換えようとして、
結局ビビってやめた私。
お前も出てこい。
二人とも。
正解だったぞ。
いや。
正確には、
何も分かってなかった。
未来を読んでいたわけでもない。
「10年後、日本は金利が上昇するでしょう」
なんて予想していたわけでもない。
そんなことが分かるなら、
今ごろ住宅ローンの心配なんかしていない。
株で大金持ちになっている。
ただ、
怖かっただけ。
最初に固定金利を選んだのも、
変動金利への乗り換えをやめたのも、
怖かったから。
つまり、
慎重。
というより、
ビビり。
そのビビりが、
10年の時を経て、
まさかのファインプレー。
人生、
こういう勝ち方もある。
しかも、
35年ローンを組んで約10年。
まだ25年くらい残っている。
長い。
やっぱり長い。
でも今度は、
この長さがちょっと嬉しい。
これから金利がどうなるかは分からない。
上がるかもしれない。
下がるかもしれない。
でも我が家の住宅ローンは、
固定。
世間が、
「金利が!」
「住宅ローンが!」
と騒いでいても、
我が家のローンは静かである。
知らん。
こっちは固定だ。
10年前の私へ。
あのとき、
変動金利の安さに心を揺さぶられながらも、
固定金利を選んでくれてありがとう。
そして数年後の私へ。
変動金利に乗り換えようと、
あんなに調べたのに、
最後の最後でビビってくれてありがとう。
10年間、
「やっぱり変動だったんじゃない?」
と疑い続けてすまなかった。
撤回する。
お前ら、やるじゃん。
まあ、
未来を読んだわけじゃないけど。
怖くて動かなかっただけだけど。
結果オーライ。
10年前の私へ。
固定金利で正解だったぞ。
やっと言えた。
10年かかったわ。
本当に大器晩成なのかは、また次回。


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